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Mine to Mine®
〜鉱山から私のもとに届くまで〜

Vol.3 誰かの暮らしに、気持ちに、心地よく寄り添う器でありたい

ものづくりの背景には、作り手の感性や技術とともに、産地へのこだわりやリスペクトの想いがあります。
さまざまな分野で活躍する女性に輝きの秘密をうかないながら、サザンアフリカのダイヤモンド鉱山で採掘された原石がダイヤモンドジュエリーとなるまでの確かなプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)を誇るSA BIRTHとの共通項を探ります。

 

【Vol.3 岡崎裕子さん/ 陶芸家

ファッション業界でのキャリアを経て陶芸の道へ

神奈川県横須賀市。湘南エリアの海岸線のドライブウェイから少し山側に入ったアトリエで、器づくりを行っている岡崎裕子さん。

「情報に溢れた街の中にいると、どうしても心を揺さぶられてしまうので、自然に囲まれた静かなこの場所に工房を構えました」。

学生時代からファッションの世界に興味を持ち、ものづくりの道に進むことを志していた岡崎さんに舞い込んだのは、イッセイミヤケのショーのために来日したモデルをアテンドする仕事。僅か数日間のアルバイトが縁でブランドのプレス担当アシスタントとして働いてみないか、と声をかけられたといいます。
「すでにニューヨークにあるパーソンズ美術大学のサマースクールへの留学が決まっていたのですが、3ヶ月後に帰国してからでも良いと言っていただき、イッセイミヤケのプレス担当として働くことになりました」

そこは、世界的デザイナーのクリエーションの現場。
「三宅さんのカリスマ性やものづくりに向き合う姿勢に圧倒され、毎日が衝撃と刺激の連続でした。同時に、私自身はたくさんのプロフェッショナルな方々が関わるファッションの世界よりも、一から十まで自分でつくる手仕事の世界の方が向いているのではないかと考えるようになったのです」

こうして選んだのが、陶芸の世界。
「本屋さんに通って本を読みあさり、作家さんや産地を紹介しているお店に足を運ぶ中で、茨城県笠間市を拠点に活動されている森田榮一さんと出会い、弟子入りを志願しました」

生まれ育った東京を離れての修行生活。
「はじめは周囲から反対もされましたが、私自身にとっては目標に向かって学ぶ充実した毎日でした」森田さんのもとで4年半、さらに最後の半年間は茨城県立窯業指導所(現在の茨城県立笠間陶芸大学校)の釉薬科で学び、独立。もともと祖父母の家があった現在の場所に移住し、アトリエを構えました。

地域ごとの “土”が育む器の文化に新たな息吹を

陶芸家にとって作品の核となる大切な要素が、素材となる土……粘土です。
「昔からの歴史ある陶器の産地は、すなわち良い粘土が出る場所でもあり、その土地ごとで採れる土が器の色や表情を生み出します。表面を覆う釉薬(ゆうやく)とのバランスも重要です。チタンの分量をちょっとずつ変えて調合した釉薬を使ったテストピースをいくつも焼き上げて棚一杯に並べ比べる中から自分の作品の方向性を探っていきました」。

こうして工夫を重ね見出したのが、鉄分の含有量が多めの粘土と、自身で工夫した釉薬の組み合わせ。ほっこりと温かみのある白色をベースにエッジの部分にほんのりと茶色が浮かび上がる岡崎裕子さんオリジナルの器が生まれました。

「不思議なもので粘土って、無理やり形を作ろうとしても焼き上がると歪んでしまったりすることもあるのです。心を落ち着けて向き合い、粘土が広がりたい方向に寄り添って作業する。ロクロに向かって粘土に触れていると、自然と呼吸を合わせてものづくりをしているのだと感じます」。

岡崎さんの作品のアイコンになっているトンボは、笠間市での修行中に出会った羽黒トンボがモチーフになっているそう。

自然の持つ造形の美しさに感激して取り入れました。もともとアール・ヌーボー時代のガラスの器の立体的にあしらわれた自然のモチーフが好きだったので、それを陶芸で表現してみました」

一つ、そしてもう一つとコレクションするファンも多い岡崎さんの作品は、ガラスケースの中に飾っておく美術品ではなく、日常の中で持ち主がそれぞれ自由に楽しむことのできる“用の美”。

「私の作品は、食事の場で料理を盛り付けていただくことで完成すると思っています。萩や備前、有田や九谷などの器はおもてなしの場で飾ったり使ったりするのに適した作品が多いですが、私が学んだ笠間や益子、瀬戸、常滑、多治見などの器は、お味噌や梅干の壺などにルーツをもつ日々の生活に密着したもの。だから自由度が高く、作家が自分のスタイルを確立しやすいのかもしれません」

産地ごとの文化や土そのものの個性にも目を向けることで、器選びはもっと楽しく、豊かになりそうです。

ジュエリーも器も、日々の暮らしの小さなスイッチ

ダイヤモンドもまた、産地によって色や個性が異なります。SABIRTHでは品質の高いサザンアフリカ産のダイヤモンドにこだわり、鉱山での原石の採掘から研磨、ジュエリーに仕立てられてお客様のもとに届くまで、責任をもって管理しています。

「遥か遠い産地から自分のもとに届くまでの距離や、地球の奥底で生まれてからの長い年月を思うと、ダイヤモンドには特別な意味合いを感じます。10年ほど前、両親が南アフリカを旅したお土産に姉と私に買ってきてくれたピアスは特に思い出深いですね

そんな岡崎さんにとってジュエリーとはどんなアイテムなのでしょうか。

ジュエリーも器も、その日の気分を変えてくれるスイッチのような存在だと思います。いつもの食卓にお気に入りのお皿を一枚、加えるだけでテーブルの景色が変わりますし、気合を入れたいお出かけにはちょっといいジュエリーをつけたくなる。そしてダイヤモンドのジュエリーも器も、いつか次の世代へと受け継いでいくことができるものだと思います。私自身にも娘が二人いますので、自分の持っているジュエリーを、この子にはこっちが似合うかな、いつかどのように楽しんでくれるかな、などと考えることもあります

引き継ぐものの尊さを感じるようになったきっかけは、40歳で乳がんが見つかり、闘病生活をしたことでした。
「人生は自分が想定していたよりも短いかもしれないと気付かされた時に、私がいなくなっても作品である器は残るのだ、一つでも多く皆様にお届けしたいと思うようになりました」

現在は陶芸家としての活動の傍ら、がんであったことを公表し、サバイバーとして自身の体験を発信することも。
「がんにまつわる社会課題に向き合う一般社団法人『CancerX』の理事として活動しています。もちろん陶芸作品もつくり続けています。今はまだ子どもが小さいので自分のペースでの制作活動ではありますが、いつかまた海外でも作品発表の機会をもつことができたらと思っています」。

 

自然のおおらかな美しさを感じさせる岡崎裕子さんの作品は、花瓶や食器として活躍するのはもちろん、ダイヤモンドジュエリーを乗せても好相性。大地から生まれた粘土を焼き上げた陶器と大地から生まれたダイヤモンドが静かに響き合います。

ピアス“ナマクワ”〈YG×ダイヤモンド〉¥847,000
ネックレス“ヴィクトリアフォールズ”〈YG×ダイヤモンド〉¥363,000  (価格は全て税込)

【PROFILE】

岡崎裕子さん /YUKO OKAZAKI
1976年東京都生まれ。97年「イッセイ ミヤケ」に入社、広報部に勤務。3年後に退社し、茨城県笠間市の陶芸家・森田榮一氏に弟子入り。4年半の修業の後、茨城県立窯業指導所(現:茨城県立笠間陶芸大学校)の釉薬科/石膏科修了。2007年に神奈川県横須賀市にて独立。2018年にはフランスのジャパンエキスポに出展。さらに雑誌やテレビ、調理器具メーカーとのコラボレーションなどでも活躍している。