TOP SA MAGAZINE Vol.8 和の食材の菓子から広がる“時間芸術”
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Mine to Mine®
〜鉱山から私のもとに届くまで〜

Vol.8 和の食材の菓子から広がる“時間芸術”

ものづくりの背景には、作り手の感性や技術とともに、産地へのこだわりやリスペクトの想いがあります。
さまざまな分野で活躍する方々に輝きの秘密をうかがいながら、サザンアフリカのダイヤモンド鉱山で採掘された原石がダイヤモンドジュエリーとなるまでの確かなプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)を誇るSA BIRTHとの共通項を探ります。

【溝口実穂さん/ 菓子屋ここのつ茶寮 主宰】

誰にでも喜んでもらえる美味しさを目指して 

東京の下町、浅草鳥越。味わいのある古い一軒家を改装した「菓子屋ここのつ茶寮」は、完全予約制の茶寮です。主宰する溝口実穂さんにとっての“美味しいもの”の記憶は、幼い頃のお祖母様との思い出にまで遡ります。

食卓で料理や菓子を食べて喜んでいる家族の姿が私の原点かもしれません。幼い頃から特に大きな夢はなく、結婚して平和で幸せな家庭を築く事が強いて言うなら夢でした。高校生までバドミントン三昧の生活だったので、目の前のことに必死で将来の事など考える事がなかったのですが、アキレス腱を切った事が大きなターニングポイントとなり、自分の将来に対して真剣に向き合い考えるようになり、悟りました。その時、ふと家族との食卓を思い出し、食べる事で表現していきたいと強く思うようになりました。」

人に喜んでもらえる美味しいものをつくりたい。調理の学校に進んだ溝口さんは卒業後、中学校の給食を担当する栄養士兼調理師に。
「しかし、大量給食を仕事とし始めてすぐに食べている人の喜ぶ顔がもう少し近くでみたいという気持ちが溢れてきました。幼少期、小豆を炊く祖母を見ていた時間を思い出し、和菓子を学んでみたい。と考えて方向転換したのです

転職にあたって製菓学校を卒業していないことはハンディではありましたが、なんとか和菓子店の中途採用に合格。経験を積む中で次に突き当たったのは食品ロスの問題でした。
「生菓子の賞味期限は当日中のため、売れ残りはどうしても廃棄せざるを得ないのです。この問題は学校給食に携わっている時にも大量の食べ残しをただ捨てるのはもったいなく心を痛めていました。残飯をゼロにするには、予約をしていただきその時間に来ていただくお客様の分を制作したら食品を捨てることはなくなる。そして、何かのついでではなく、わざわざ予約してお越しくださるお客様に食べてもらいたい温度や状態などベストな提供ができる。そんな思いが膨らんでいきました」。

和菓子店で働く傍らで休日は京都に出かけ、懐石の店や菓子店を食べ歩いて勉強を続けた溝口さん。
「自分の中で表現したいことは、一品ではなく、何皿かの流れの中で物語を感じていただくコース制だという思いに至り、この茶寮をオープンしました」

季節の移ろいを五感で味わう “糧菓”

蝋燭の灯りが揺らめく、ほの暗い空間。器、カトラリー、飾られた花、お湯が沸きお茶が注がれる音まで。「菓子屋ここのつ茶寮」では、溝口さんが手掛ける五皿のコースとともに時間や空間までも味わうことができます。

「都会ってビルが高くて空が遠くて、緑も少ないですし、どこもかしこも明るすぎると思いませんか?そんな東京で四季を表現するにはどうしたら良いだろうと考えて、 茶寮に入り込む光と旬の食材で季節を表現することにしました。窓から差し込む必要最小限の光が、春は柔らかく、夏は鮮やかに、と変化していくのを感じていただくことで、⾛り続けている⽅達にとって美味しく季節を味わっていただける休憩所になれば。また、私たちはどうしても“目“からの情報で感覚を左右されがちですが、薄暗い空間に身を置くことで感覚が研ぎ澄まされて、舌でちゃんと味わっていただけるのではないかと思っています」

「菓子屋ここのつ茶寮」で提供する菓子を、溝口さんは“糧菓”と呼んでいます。

「和菓子と聞くとお抹茶に 似合う甘い練り切りや大福などを想像する方が多いと思いますが、私は、日本の食材を使った日本のものは、みんな和菓子と思って生きてきました。そもそも明治時代に西洋の菓子の文化が入ってきたことで、日本古来の菓子は“和”菓子と呼ばれていますが、和も洋も料理も菓子もを超えたもっと自由なものを提供したいと思って。そんな時に、本の出版でご一緒した陶芸家の安藤雅信さんが、食べて糧となる菓子……“糧菓”と名付けてくださったのです。それから自由度が増して、気持ちも楽になり、ますます楽しくなりました。」

インタビューの合間に仕上げられたひと皿は、寒天に黒蜜ときな粉をかけ、WABARAと呼ばれる滋賀県産のバラの風味をきかせたもの。見た目はシンプルですが、口に入れると思いがけない味と香りが広がります。

「茶寮で提供されるコースは、ひと月ごとに更新されますが、それぞれの“糧菓”にはあえて名前をつけていません。ひと月の中でも一日一日で天候も気温も異なりますし、食べていただく方によって感じ方も変わると思うので、名前をつけると縛られてしまう気がして」と語る溝口さん。その季節、その日に、その人が感じた味を記憶の中に残していく五皿のコースを体験するひとときは、まさに“時間芸術”と言えるでしょう

美味しいものや美しいジュエリーから膨らむ産地への興味

味も見た目も食感も緩急のつけられた「菓子屋ここのつ茶寮」五皿のコースには、全国の産地から溝口さんのこだわりによって選び抜かれた和の食材が使われています。小豆は北海道産と丹波産。きな粉は、新潟産の大豆を炒ってコーヒーミルで挽いたもの。そして紅茶は沖縄から取り寄せているそう。

沖縄県の名護市で無農薬で栽培されている“べにふうき”という茶葉から作られた紅茶は渋みがなく、飲んだ後にほんのり甘い余韻が残ります。お湯を足して何煎も楽しむことができることにも、沖縄の大地や太陽のパワーを感じますね」

沖縄からはレモンマートルの葉や島とうがらしなどのスパイスも調達。さらに自身が旅した際に拾ってきた枝や珊瑚がティースプーンやカトラリーレストのかわりになって、おもてなしのカンバセーションピースの役割を果たし、産地と食べる人とを繋ぎます。

SABIRTHのダイヤモンドジュエリーもまた、産地にこだわり、サザンアフリカの鉱山での原石の採掘から研磨、ジュエリーに仕立てられるまでの旅のプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)明確にして身につける方のもとにお届けしています。

「もともとはあまりジュエリーをつけなかったのですが、29歳の誕生日にリングを購入したのがきっかけで、一年に一度、頑張って働いてきたご褒美として自分へのプレゼントを続けるようになりました。つける&はずすがオンとオフのちょうど良いスイッチにもなるのも良いですね

蝋燭の灯りのもとでダイヤモンドは、ひときわ光を放ち、煌めきます。

美味しいものを食べた時もそうですが、美しいジュエリーを身につけると、自分自身に幸せが訪れる気がして、素材や産地、つくっている人さんへの興味も膨らみます。私は何ごとに於いても背伸びをした分だけ経験値が上がると思っているのですが、ジュエリーも妥協しないで良いものを一つずつ手に入れて、似合う自分になるように頑張っていきたいですね。食べ物は口にすればなくなってしまうので、美味しかったという記憶を残していくことしかできませんが、ダイヤモンドは永遠。“手に入れた29歳のあの日の自分”を形として残すことができ、さらに頑張ろうと思う“糧”になる気がしています

猪突猛進だった若い頃と比べると、最近は肩の力を抜いて自然の流れに身を任せることができるようになってきたという溝口さん。季節の中で一日一日、丁寧につくる“糧菓”が、これからも訪れる人を癒してくれることでしょう。

左)ヴィクトリアの滝の水しぶきをペアシェイプダイヤモンドの煌めきに重ねて。ブレスレット /VICTORIA FALLS〈Pt×ダイヤモンド〉¥550,000 (税込)
中)花を象った南アフリカのニット手法のフォルムを繊細な透かし技法で表現。リング/AFRICAN FLOWER〈Pt×ダイヤモンド〉¥605,000
右)モチーフはサザンアフリカの大地を照らす南十字星。ペンダント/FOREVER STAR®〈Pt×ダイヤモンド〉¥1,188,000

 

【PROFILE】

溝口実穂/MIHO MIZOGUCHI

完全予約制「菓子屋ここのつ茶寮」主宰。茶寮では旬の食材を糧菓に仕⽴てた5皿とお茶のコースが用意されている。2020年「茶と糧菓 -喫茶の時間芸術-」(小学館)を陶作家の安藤雅信氏と共著で出版。

http://kokonotsu-9.jugem.jp