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〜鉱山から私のもとに届くまで〜

Vol.21 産地への思いを込めて京都で編み上げる竹工芸品

ものづくりの背景には、作り手の感性や技術とともに、産地へのこだわりやリスペクトの想いがあります。さまざまな分野で活躍する方々に輝きの秘密をうかがいながら、サザンアフリカのダイヤモンド鉱山で採掘された原石がダイヤモンドジュエリーとなるまでの確かなプロヴェナンス(来歴)とトレーサビリティ(生産履歴)を誇るSABIRTHとの共通項を探ります。

 

【Vol.21 小倉智恵美さん/竹工芸作家

日本古来からの竹素材を用いた工芸の世界に惹かれて

京都駅の西北、静かな住宅街にある京町家を自宅兼工房にしている小倉智恵美さん。神奈川県で生まれ育った小倉さんが京都に移り住み、竹工芸作家になったのは、偶然目にしたテレビ番組がきっかけだったといいます。

「幼い頃から自然のものを素材に工作をするのが好きで、木の実やつるでリースをつくったり、押し花を楽しんだりするような子どもでした。高校生の頃にテレビで見た茶道の番組で、お点前の美しさとともにお茶室で用いられる棗や茶杓、茶碗をはじめ、心づくしの道具でお客様をもてなす光景に魅せられたのです。ちょうどその頃、環境問題に興味をもっていたので、日本で古来から生育している竹が、成長が早くエコロジーな素材であるということを知り、竹を素材とした工芸に興味を持ちました」。

こうして京都伝統工芸専門学校(現在の京都伝統工芸大学校)の竹工芸コースに進学。職人として活躍する先生に、竹工芸の基礎から学びました。
「もともと“描く”ことより物を“つくる”ことが好きでしたが、竹は割るにもコツが必要で、初心者では、まずナタの刃が竹に入リません。練習を重ねる中で怪我をしたことも一度ではありませんでした」。

竹工芸の技法は、竹の姿を生かしたまま用いる「丸竹加工」と、細く割ったひごを編み組みして竹かごなどを造形する「編組(へんそ)加工」に分けられます。1年生で基本を学んだ小倉さんは、2年生からは「編組」を選択。基本的な編み方から始まり、徐々に複雑な編み方を習得していきました。

「2004年に学校を卒業し、本来は師匠についてその下で学びながら仕事ができれば良かったのですが、残念ながら職人さんたちの工房は、どこも毎年新規のお弟子さんを採っている訳ではありません。そこで同世代の女性を中心に7人で場所を借りて工房を立ち上げました」

無名の新人に作家性の高い作品のオーダーはなかなか来ず、一人、二人と工房を離れる人も出る中、小倉さんは他分野の作家たちとのグループ展に参加するなどして徐々にネットワークを広げていきました。

レースのように繊細でありながら強さも秘めた作品

2011年に独立し、自身の工房である「京竹庵 花こころ」を立ち上げた小倉さんは、間もなく京都府が主催する“京都職人工房”に参加する機会を得ました。
「技術はあっても販売の方法がわからない職人たちに向けて各界のプロの方々が講師となりビジネスプランの作成やデザインなどを学ぶ中、商品開発のワークショップで考えてみたのが“竹工芸の技術を生かしたアクセサリー”です。私はもともと竹細工の中でも細く薄い竹ひごを刺繍をするように差していく“差し六つ目編み”といった繊細な技法が得意でしたので、それを生かしたバングルを提案したところ、講師の方にも参加している他のメンバーにも好評をいただくことができました」。

どんなアクセサリーなら需要があるのか、展示会や東京のセレクトショップにも足を運びリサーチを経て、2014年に発表したバングルは、小倉さんの代表作の一つに。
「伝統的な籠や花籠だけでなく作品の中にアクセサリーもある作家だということで、パリで開催されたJapan Expoや東京の百貨店にも声をかけていただけるようになりました」。

工房にストックされたさまざまな種類の竹は、ナタで二つ、そして四つに、と割られていき、細いものでは0.5ミリほどの竹ひごへと加工されます。その1本1本を丁寧に面取りして厚みを揃え、レースのように編み上げられていく小倉さんの作品は、ため息が出るほど繊細です。
「アクセサリーやインテリア小物のように現代に暮らす方のライフスタイルに適した新しいアイテムに挑戦していきたいという気持ちがある一方で、この道に入るきっかけになった茶道具をはじめ、伝統文化に育まれた竹工芸を遺していきたいという思いも強いです」

小倉さんが通うお茶のお稽古では、色々な年代の人と触れ合うこともさまざまな気付きに繋がっています。
「奥深い世界ですので習得するには時間もかかりますが、勉強を続けながら伝統文化の中で用いられる竹工芸品も制作していきたいですね。茶道の世界は季節や自然とともにあり、古くから伝わる年中行事も大切にしています。そんな精神性や世界観に豊かなものを感じますので、ものづくりに生かしていくことができたら」。

竹材も、ダイヤモンドも。より良い素材を追求する思いは同じ

工房での作業は、椅子とテーブルではなく、昔ながらに畳の上に正座して行います。
「 お腹に力を入れないとできない作業も多いので、姿勢としては正座が一番合っていますね」。

編み目が1ミリずれるだけでもフォルムが変わってしまうので、制作には集中力も必要。こうして小倉さんが日々向き合う作品づくりに用いられる竹材は、素材によっていくつもの産地から集められています。

「昼夜で寒暖差のある京都は昔から良質な竹の産地で、それゆえに竹工芸が発展したわけですが、 現在では竹林を管理し、青竹を切って加工する職人さんも減ってきています。私は恩師や母校が長くお付き合いしてきた江戸時代から続く老舗の竹材店さんにお願いしているのですが、色を染める作品に用いるマダケは京都の亀岡、クロチクは京都府乙訓郡大山崎や隣接する大阪の地域、現在作品に多く使用している白竹は大分県より届きます。 竹林に生えていた青竹のままではカビやすく変色もしていくので、工芸品の素材にするには火で炙るか、アルカリ性の湯で煮沸した後に日光にさらして乾燥させる「油抜き」の工程が必要です。近年は油抜きを行う職人さんが減ってしまい、竹材店さんが担うことも増えているそうです。そのような中ですが、良質な竹材を供給するため、入手先を開拓するなど竹材店さんは尽力してくださっていて、本当にありがたく思います」。

小倉智恵美さんが竹材の産地にこだわり、自身のもとに運ばれて来るまでに携わる人々への感謝を込めて作品をつくり上げているように、サバースも南アフリカやボツワナなどサザンアフリカ産のダイヤモンドにこだわり、鉱山での採掘から研磨、ジュエリーに製作と多くのプロフェッショナルの手を経てお客様のもとに届くまでの道のりを明確にしています。

「普段の生活ではラグジュアリーなジュエリーを身につける機会はなかなかありません。でも、つけてみると削ぎ落とされたシンプルなデザインゆえのモダンな美しさを感じますね。そして私自身竹細工のアクセサリーを手掛けていますのでわかるのですが、ジュエリーやアクセサリーはオブジェとしての見た目の美しさに加え、身につけた時に人の身体と調和して完成する美しさやつけ心地も重要です。ダイヤモンドをどう美しく見せるか、デザインとしてどう調和するかを考え抜いたであろう作り手の情熱が感じられて感動しました。ジュエリーも竹工芸品も素材が表に出てくるものですので、素材そのものが良くなければ作品はできません。産地を選び、生まれた場所とのつながりを大事にすることは、プライドを持ってより素晴らしいものをつくりたいという思いのあらわれなのだなと気付かされました」。

伝統の技法とともに古き良き日本の感性までをも現代に、そして未来へとつなげていく小倉さんのものづくりは、まだまだ続きます。

ペンダント/中央で揺れるダイヤモンドを囲む結び目が大切な人との縁を表現。
KIZUNA〈Pt×ダイヤモンド〉¥1,485,000

リング(左)希望峰をモチーフに、ダイヤモンドが未来を照らすデザイン。
GOODHOPE〈Pt×ダイヤモンド〉¥2,178,000

リング(右)南アフリカのオレンジリバーのほとりで少年がダイヤモンドを発見した物語をエタニティリングに。
ORANGE RIVER〈Pt×ダイヤモンド〉¥1,870,000

イヤリング/ ダイヤモンドとプラチナの“糸”を人生や人の縁に重ねて。
KIZUNA〈Pt×ダイヤモンド〉¥891,000

 

 

【プロフィール】
小倉智恵美/CHIEMI OGURA
神奈川県生まれ。京都伝統工芸専門学校(現在の京都伝統工芸大学校)の竹工芸コースを卒業後、同級生と共に中京区で工房を立ち上げる。2011年に独立し、下京区に工房を構える。2014年「Kyoto Basketry Acceory Series」のバングルとリングがOMOTENASHI Section受賞。Japan Expo パリ WABI SABIパビリオンをはじめ多くのギャラリーで作品を発表している。